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今週の一本

●海を越える和製アンチョビ 【エタリの塩辛】HP  越川 渚(週刊水産タイムス:07/3/19号)

エタリの塩辛で地域活性化
長崎の漁業者夫妻が「考える会」で報告

 

 日本の沿岸漁業の衰退が叫ばれる中で、地方の漁業現場において地道な活動で地元産品を紹介し、地域おこしや情報発信を努める人たちがいる。

 3月7日、東京海洋大学の「漁業について考える会」では、長崎県雲仙市南串山町で、カタクチイワシを対象としたまき網漁業をしている竹下千代太・敦子さん夫妻が、現在直面する沿岸漁業の問題や解決に向けた具体的な取り組みを紹介した。地元の伝統的保存食であるカタクチイワシの塩辛を内外に広めることで、地域への愛着や誇り、地域の活性化に繋げたいと参加者を前に熱く語った。
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 竹下さんは東京の水産会社で11年間のサラリーマン生活の後、6年前にUターン、家業のまき網漁業を継いだ。所有の中型まき網船天洋丸は、橘湾で煮干の原料となるカタクチイワシ操業を行っている。
 しかし、作業員の高齢化と人手不足、漁船・漁具の老朽化、後継者問題、魚価安など、沿岸漁業者共通の問題を抱えている。煮干の生産量では長崎県がトップ、2000年まで1万tを超えていたのが、7〜8000tに落ちている。竹下さんらの漁協での煮干の生産量は約503t、かつては40軒ほどあった加工業者も14軒に減少した。
 竹下さんは漁業者らと協力し、橘湾におけるまき網漁業の存続と地域の基幹産業として発展させるべく保存会をつくった。漁業研修生の受け入れ、学生のまき網体験乗船などの活動を行ってきた。
 無添加の「天洋丸の煮干いりこ」を広く知ってもらうため、ホームページを開設して、ネット販売も行っている。漁獲が不安定なので出荷量に限界があるほか、いりこをパックする労働力が足りないなどの問題もあるが、竹下さんは「地域全体がよくなれば、誇りを持って沖に出られる」と強調する。
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 一方、都会育ちの敦子さんはこの地に移り住んで、漁家の生活の知恵や伝統の味を発見した。地元でエタリと呼ばれるカタクチイワシの塩辛に出会い、次第に「この美味しさを全国の人に知ってもらいたい」とエタリ塩辛にはまってゆく。
 カタクチイワシでも脂肪分が一定以下は煮干用として尊重されるが、脂の多いアブライワシが混じると脂の酸化により煮干の品質が落ちる。エタリの塩辛はアブライワシを塩に漬け込んで重石をして発酵させたもの。かつては冬場の保存食として家庭で作られていたが、現在は減塩嗜好もあって、漁業者が自家用に塩辛にする程度となっていた。
 「このエタリの塩辛をどうにか残したい」。敦子さんはホームページを立ち上げ、試食希望者に無料配布をして宣伝に努めた。その努力が実を結び、2004年には農水省の補助事業「故郷に残したい食材」の一つに選ばれ、翌年12月にはイタリアに本部があるスローフード協会が、伝統的な食文化を守るための「味の箱舟」事業でエタリの塩辛を選定した。
 これを機会に敦子さんたちは、「生産者がしっかりとした意識を持ってまとまって行動する必要性がある」と、生販三層の30人ほどで、06年1月に「エタリの塩辛愛好会」を発足。10月にはイタリアでの同協会主催の生産者会議にも代表が招待された。
 イタリアでは持参した塩辛が頭付で、試食を敬遠されてしまったが、アンチョビの和製版としてペーストにすればパンやパスタなど応用は多いはずと、洋食レシピの作成に意欲を燃やした。地元でも「エタリの塩辛は辛すぎる」と敬遠されることがあるが、その塩分を利用し、パスタソースの調味料に使うなど、新しい調理の幅を広げている。

 ただ現在は会としての商品を生産しておらず、地元でも作り手や時期により味が違っており、食べた人たちから時に不評の声が出ることもある。そんな時は「残念でしたね、次回はきっとおいしいのが当たりますよ!」と笑顔で応える。商品のバラツキをなくすことも必要だが、「いわゆる画一化されていない味を知ってもらい、“食卓の向こう側”、すなわち海を相手の漁業者への理解を深めて欲しい」、そして、「カタクチイワシを通じた人と人との結びつきを大事にしたい」と話している。


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