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今週の一本

●3社の事業統合撤回で波紋 越川 宏昭(週刊冷食タイムス:08/02/12号)

業界に「安堵」と「落胆」の声

「再編を先導」の期待も霧消

 日本たばこ産業(JT)と加ト吉は6日、日清食品との冷凍食品事業の統合計画を解消すると発表した。JTと日清食品の間にあった当初からの温度差が今回の中国製餃子の中毒事件を機に広がったと言える。これにより3社の単純合算で冷凍食品売上高2600億円という業界巨大企業の誕生は夢と消えた。

 冷凍食品業界では安堵と落胆が入り混じった感想が各方面から聞こえる。安堵は「強敵登場の延期」、そして落胆は「閉塞状態打破への期待」が消え去ったことによる。この3社の冷凍食品事業統合の解消について「安堵」と「落胆」のどちらが多いか。落胆のほうが多い気がする。それだけ期待感が大きかったということである。
 昨年12月4日付本紙でも「新生加ト吉 広がる可能性」と題してコラムを掲載した。見出しに「閉塞状態の打破に一役期待」、「3社混合から生まれるか創造性」と掲げてあり、記事内容も、「(3社統合を)閉塞感のある冷凍食品業界に風穴を開けるチャンス」とポジティブに捉えている。
 さらに記事では、安売りからいかに脱却するかという業界の悲願に対し、断トツトップメーカーの登場は「新天地への活路を切り開く突破口になるかも知れない」との期待を示し、「新生加ト吉がめざす先に業界を変革する何かがあると信じたい」と結んでいる。3社統合によって業界再編に拍車がかかることを期待する向きが多かったのを受けた記述である。

 今回の中国製餃子の毒入り事件ではJTの対応の鈍さを批判する声が多い。想定外の殺虫剤検出だったという点で情状酌量の余地はあるものの大手冷凍食品メーカー筋のほとんどが「第一報でなぜ徹底究明しなかったのか」とJTの危機管理の甘さを指摘する。
 JTの対応の鈍さを非難するのは、業界各社が多少の差はあれ、大概被害を蒙っているからである。今回の事件を機に「中国」の2文字が入った商品はほとんどのスーパーの冷凍食品売場から撤去された。学校給食など業務用筋でも同様の動き。
 餃子にとどまらない。その中には、かつての残留農薬事件の“後遺症”から癒え、ようやく店頭に商品が並び、売れ始めた中国産冷凍野菜も含まれている。冷凍野菜の担当者にとっては「冬過ぎてまた冬」というのが実感であろう。メーカー各社にとっても「被害甚大」なのである。

 そもそも日清食品は当初から統合会社の株式の過半を希望するもJTが譲らず、結局49%保有で妥協した経緯がある。そこにはJTの資本参加を待って、外国の投資家からの企業防衛を図るという日清食品の思惑も働いたはず。
 今回の餃子事件を機に、日清食品が事業統合した後で中途半端な責任分担を課せられるのは承服し難いとの思いを強めたとしても不思議ではない。「経営の主導権をとり、安全確保にも主体的に取り組むべき」という声が各方面から高まったのは自然な成り行きといえる。
 よしんばこういう事件が起こらず3社の冷凍食品事業統合が無事成立したとして、後々不協和音は生じなかっただろうか。
 日清食品の経営規模にしては冷凍食品事業の生産・販売規模は中小メーカーの域を超えていない。だからこそ今回の統合により冷凍食品事業を飛躍させたいと願望したはず。
 これに対して、JTは「3社の事業統合に止まらず国内外を含めた資本・業務提携を模索していく」(木村宏社長)とし、金森哲治加ト吉社長も「3社の事業統合だけで終わる話なら当社が加わる意思はなかった」と当初から語っている。統合の先を見つめるベクトル(目線)はJT側と日清食品では微妙に違っていたように見える。
 3社統合の枠組みが崩れ、JTと加ト吉の2社による事業統合だけでは業界に与えるインパクトは大きく低下する。業界再編を促す起爆剤になるとは思えない。とは言うものの2社が最善を尽くし、まず新たな相乗効果を生み出すという実を上げて見せることが先決である。

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