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業界交差点

この人に聞きたい:第144回
(週刊水産タイムス:08/06/02号)

成長のビジネスモデルを構築

(株)マルハニチロホールディングス
代表取締役社長  五十嵐 勇二 氏

 

資源アクセスと加工販売 海外視野にバランス図る

 「1兆円企業」の誕生で話題となったマルハニチロホールディングスは、4月に事業会社がスタートし、闘いの火ぶたが切られた。このほど公表された前3月期の決算は、ニチログループの下期分が加わった変則形となっただけに、まさに今期が正念場。五十嵐勇二社長の決意も並々ならぬものがある。7月には新たな中期経営計画を発表する。

統合効果はこれから
 ――前3月期の決算をどう受け止めたか。

 五十嵐 悪かったのは確かだが、ニチロとの経営統合は昨年の10月だったので前年との単純比較はできない。今回の数字にニチロの上期分を足した売上高9600億円、営業利益145億円がマルハニチロホールディングスとしてのスタートラインになる。問題はここからどう上積みするかだ。

 ――経営統合から8カ月。事業会社がスタートして2カ月。そろそろ統合効果がでてきたと感じるか。

 五十嵐 具体的な成果が現れるのはこれから。初年度は派遣社員を含め、旧マルハ・ニチロで約200人減った。大半はグループ会社に行ったが、グループ会社でも自然減と派遣社員のカットがあり、結局グループ全体で200人くらい減っている。これが数字で反映されるのは今期から。
 さらに今年と来年で年間100人ずつ、3年間で計400人を削減する方針。団塊の世代が定年の時期を迎えることもあり、この3年は自然減だけで600人に上る。新規採用を考慮して減少は400人。コストが一人当たり800万円とすれば、それだけで32億円の経費削減。これが現時点でのはっきりとした統合効果だが、期待されているのはあくまで利益増を実現する統合効果だろう。

 ――当然、そこが期待される。

共同開発がヒット 
 五十嵐 人員削減、さらに支社統合などのコストカットが26億円。統合効果は全体で40億円を見込んでいるから、残りの14億円が事業面となる。これが今後の課題。今期の営業利益は前年の145億円に統合効果の40億円をプラスして、最終的に190億円を目標設定した。アナリストは「強気」と眉唾で見ているようだが、それほど無茶苦茶な数字ではないはず。
 2007年度の営業利益はマルハ、ニチロを合わせて前年比で17億円悪化した。他社もそうだが、水産にとっても食品にとっても厳しい年だった。状況が悪い中で健闘したとは思っているが、それにしても厳しかった。今はコストアップ先行型で価格転嫁がしにくい。そこへ天洋食品の事件が追い討ちをかけた。2〜3月は売上げで30億円、営業利益で2億円の影響があったと見ている。

 ――統合の象徴的な商品である「冷凍ちくわ天ぷら」が売れているようだ。

 五十嵐 マルハニチログループ共同開発による第一弾「ちくわ天ぷら」は月商1億円と好調。「白身&タルタルソース」も、原料となる白身魚や調味料の供給をマルハが行うなど統合効果がはっきり出ている。

 ――缶詰も経営統合したことでシェアがかなりアップした。

 五十嵐 もともとマルハが強みを持っていた青魚缶詰に一層磨きがかかり、逆にマルハが弱かったサケ缶にニチロの強みが加わった。サバ・カニ・サケは業界で圧倒的なシェアになる。缶詰も経営統合の効果に注目してほしい。

 ――「マルハ」「あけぼの」ブランドは残した。統合したため、売場で絞られたらたまらない。

生産性と品質向上
 五十嵐 本社、支社とも両方のブランドを一緒に売っていくが、スーパーの棚割で1プラス1だったのを1.5にされては困る。新会社による新たな商品を積極的に投入するなど、結果としてシェアを拡大しなければ経営統合した意味がなくなる。

 ――生産拠点も整理統合しなければならない。

 五十嵐 大江工場(冷凍麺・冷凍米飯)、石巻工場(冷凍食品)、宇都宮工場(魚肉ハムソーセージ・冷凍食品)、下関工場(カップゼリー・レトルト・ちくわ・乾燥食品)をはじめ、かなりの数に上り、しかも北海道や東北といった東日本に偏っている。グループ内に生産統合推進部を立ち上げ、具体的に詰めていく。生産拠点の統合は一時的には大きな出費を伴うが、計画的に思い切って実行することが大切。全体として生産性を上げ、品質向上にもつなげたい。
 研究所は裏方意識があるが、食品会社にとっては生命線。できる限り金も人も増やしたい。マルハ、ニチロが一緒になって刺激があればあるほど、その後の向上の要素がある。基礎は双方で同じだが、食品への商品化ではニチロが上手。研究所は川崎(ニチロ)をつくば(マルハ)に一本化するが、ニチロの商品開発部開発センター(東京・蒲田)やマルハの中央すりみ研究所(東京・豊海)は当面変えない。すりみ研は公的機関に近い役割も有している。
 マルハもニチロも漁業で発展してきた会社だけに、海外の加工拠点も多い。特にキングフィッシャーホールディング(タイ)は順調。グループとしては海外工場をはじめ、子会社、関連会社をフル活用しながら、欧米、中国、アジアに向けて万全の体制を整えたい。

 ――水産事業で、資源問題がクローズアップされるが。

スタートダッシュが大切
 五十嵐 資源アクセスと加工販売のバランスが大切。今後のマーケットの伸びが期待されるのは欧米であり中国。中国は最大の輸出国であると同時に、最大の輸入国でもある。伸びゆく市場にどうアクセスし、適切な調達力をいかに結びつけるかが問われる。

 ――資源確保への投資もそれなりにしている。

 五十嵐 マルハ、ニチロはここ数年、水産物の調達力強化のため、資源アクセスに積極的な投資を行ってきた。マルハはスケソウ事業強化のためスケソウ母船「オーシャンフェニックス号」への資本参加、大型海外まき網漁船への投資、マレーシアのエビ養殖会社「アグロベスト社」の買収、カンパチの最大養殖会社「桜島養魚」への資本参加を実施。この件で計100億円を投入した。
 ニチロも一昨年、チリのサケ養殖事業「パタゴニア・サーモン社」への資本参加をしている。新会社のこの方針を踏襲し、しっかり安定供給していく役割を果たしていく。国内はマグロ増養殖事業部が過去最高の利益を上げており、今後もさらに強化する。

 ――冷蔵倉庫・物流事業の展望は。

 五十嵐 抜本的なテコ入れや改善が必要だと思うが、この分野は投資の規模が大きいので、そう簡単にはいかない。

 ――新中期経営計画を7月に打ち出すが。

 五十嵐 我々のビジネスモデルを成長産業としていけるかどうかが最大のテーマだ。どこもオーバーサプライで苦しんでいる。食品の国内マーケットが縮小していく中で、シェアを食い合うしかない現状からの脱却ができるかどうか。欲しいものが何でも手に入る世の中にあって国内の食品は完全な成熟産業。そこに統合の必然性があったわけで、今後、伸びる市場は海外とみる。資源も含め、そこにどうアクセスするかだ。
 だからグローバルに見れば、水産も成長産業の一つ。輸入量は頭打ちだが、輸出量の伸びははっきりしている。持って行き方では有望な事業にできる。その際に、統合が大きな“力”になる。ともに100年を超える歴史のある会社が一緒になったわけだから、軋轢があって当然だが、もはやそんなことは言っていられない。

 ――統合元年としての構えは。

 五十嵐 事業は出足が大事。初年度からしっかり結果を出しておけば2年目以降に弾みがつく。スタートダッシュを重視し、会社を結集していきたい。

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