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業界交差点

この人に聞きたい:第257回
(週刊冷食タイムス:10/09/14号)

同じ価値“共有”せよ

味の素冷凍食品元専務  近藤 直氏

 

業界に置き土産 

 消費者と業界は“対等”な立場であるべき、取り組み先を明確にすべし、品質アップで価格の壁越えよ、顧客に「こんな商品があったの!」という“気づき”の提案を常に――。
 味の素冷凍食品でマーケティング本部長を長く務め業界屈指のマーケターと評された近藤直・元取締役専務執行役員は、冷凍食品業界が考えるべき課題や今後歩むべき方向などにつき様々な提案をしている。
 味の素製薬の常勤監査役に6月末転じた近藤氏。冷凍食品産業に残した“置き土産”を業界関係者はどう受け止めるのか。
 
 ◇価値観の相違
 「消費者の冷凍食品に対する価値観と業界の価値観には大きな相違がある」。
 近藤氏はそれを最初に指摘する。例えば冷凍食品の保存温度を業界人は誰でも知っているが「マイナス18度Cであることを多くの消費者は知らない」。この基準情報の違いが、まず多くの誤解の元となっている。
 温度を維持し品質を保った冷凍食品の価値を正しく消費者に伝えるために、業界はどうすべきなのか。
 「少なくとも業界の一方的な価値観にとどまっては意味がない」。近藤氏は「2ウェイではなく“共有”するレベルまで近づけなければいけない」と指摘する。
 業界の価値と消費者の価値感を同一レベルにする。「その際、業界が教える、というスタンスではなく、消費者と“一緒に”考えることが大切」。この取り組みの上で「何をどうすれば互いに冷凍食品のメリット、特性を享受できるか」を考えるべきであり、消費者目線が業界に求められる。「この段階で儲かる、儲からないという商売の視点は入れるべきではない」。
 消費者にとって冷凍食品が必要不可欠なものになりつつあるのは明らか。「業界史上最悪の天洋食品事件を経験した消費者が、それでも冷凍食品を再び使うようになった」ことがそれを証明する。「その過程で、いわゆる、安心安全体制の確立に業界が自ら立ち向かい、その取り組みを消費者が認めた結果」でもあることは言うまでもない。
 しかし、天洋事件を転換点として、再び成長軌道を見出したところと、苦戦を続けるところと、二極化も始まった。「それは(業務用ユーザーを含め)消費者が冷凍食品に対し、何をどう知りたいかを掌握し、それに具体的に取り組んだかどうか、行動に移したかどうかの違い」と論点は明確。
 味の素冷食は天洋事件をきっかけに、消費者との情報の“共有”のため、HPや商品パッケージを通じた情報開示を具体的で分かりやすい内容に変え、その取り組みを新聞の全面広告で繰り返し告知してきた。

第2、第3世代到来は改革好機

 ◇取り組み先相手
 冷凍食品の販売先との関係強化の必要性も近藤氏は強く指摘している。
 特に業務用地域卸店と冷凍食品メーカーの関係について、事業環境の変化を機に「新しい時代の対応策が生まれるだろう」と読む。
 業務用地域卸店は創業者の強い理念と指導力をベースとして、長い時間をかけながら地域における存在感を認められてきたが「これからはヨコとタテの相互連携が重要になる」という。
 業務用大手広域卸や大手流通資本が地域業務用市場の取り込みを拡大すれば、中小規模が圧倒的多数を占める業務用地域卸は苦しい。しかし「そこに生きる道もある」と近藤氏。
 様々な業界問屋団体がここにきて活発な会員異動を見せている点に近藤氏は注目。「次の方向性を求めて中小地域卸が模索を始めた証拠」と受け止める。
 そこで業界団体・組織によるヨコの連携に加え、メーカー・卸・ユーザーと原料産地までをも貫くタテの連携の必要性を強調する。
 「結局、誰と手を結ぶか、どこと一緒に戦うかを明確にすることが大切」。その際、PDCAサイクルを指導できる人材教育も不可欠だと近藤氏。「かつては卸店創業者が社員を育ててきたが、これからはメーカーと卸店が互いに組み合い、人材育成も販路拡大にも取り組む方が合理的」という。
 近藤氏は業務用卸店組織のメーカー代表副会長として業務用流通にも深く関与し、業界事情を知る。

価値と価格アップは不可欠
“気づき”打ち出しヒット商品に

 ◇8で売るより12で
 冷凍食品の品質の圧倒的な向上と価値アップについては、近藤氏が味の素冷食時代に様々取り組み、成功事例を多く生んできた。
 「品質向上と価値アップは製品価格の改善(=値上げ)にもつながる極めて重要なマーケティング手法」。
 端肉を結着して衣を付けても豚肉を原料としたとんかつに違いはないが「よりおいしいとんかつを求めれば、一枚肉の豚肉となる」。
 しかも元気な豚に育つと言われる三元豚(3種豚の交配種)を使えば、安心安全品質を強くアピールできる。そこに消費者と共有する必要な情報開示が加われば、消費者の支持は確実となる。
 「品質を徹底追求した結果、『三元豚のとんかつ』は圧倒的に売れた」。
 捉えるべき方向は「10のものを8で売る努力ではなく、10+2として市場を拡大すること」。売価は当然高くなるが「商品価値が高ければ、価格の壁は乗り越えられる」。これまでの味の素冷食の取り組みで、その成功事例は多く生まれた。
 「数量が伸びていることは冷凍食品の価値が認められている証しであり、重要なファクター」ではあるが「数量が伸びても売上げが伸びない、あるいは減収となれば、市場はシュリンクし、決して明るい未来には結びつかない」と警告する。

瞬間的支持に惑わず満足を追え
 
 ◇売れる商品づくり
 画期的な新製品、新分野の開発は業界共通の課題だが、やすやすとできることではない。「しかし、既存品でも消費者の満足度を高めることはできる」。
 新商品の消費者評価は通常、満足から不満足に正規分布を示す。山は「やや満足」であり、悪い評価ではない。しかし「不満」要素を徹底分析し、改善に成功すれば平均満足度を示す層が広がる。「平均60点の商品を75点に高める努力」と近藤氏は表現する。
 この正規分布を示さない商品もある。それが市販用「若鶏から揚げVP」(ボリュームパック)の事例だという。当時の売場にはほとんどなかった高単価商品でもあり、平均点もまずまずだが、高評価と低評価が二分していた。
 「消費者が求めるものは肉質、食感、味、価格はもちろん、容量なども大きな要素」。買い置き需要と使い勝手を考慮し、この商品の袋にはジッパーもつけた。その結果、当初は目立たなかった動きがジワジワ広がり、トップ級の売れ筋に定着した。
 近藤氏は「気づき商品」、つまり「こんな商品があったのね!」という動きだとこれを分析する。これと反対に「一気に売れる商品は要注意」とも指摘する。1個30gの加工食品を25gに少量化し値頃感を出して売れたとしても、その後の動きを見なければ「プラスかマイナスかは性急に判断すべきではない」という。
 ありそうでなかった、欲しいのに買えなかった、いいんだけどウチでは余る――、いずれも消費者のホンネを示すキーワード。「マジョリティー(大多数)だけを追うマーケティングでは限界がある。おいしさはもはや評価基準ではない、当たり前。使い方、イメージ、シチュエーション、プライスなど総合的に判断し、需要をそこから広げることが市場拡大になる」と近藤氏は強調する。
 最後に「冷食の担当としてこれまで一番の思い出深い商品は」と聞いた。近藤氏、迷わず「若鶏から揚げVP」と即答した。

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