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この人に聞きたい:第569回
(週刊水産タイムス:16/12/19号)

市場一筋、築地の顔、旭日中綬章を受章

中央魚類(株) 代表取締役会長CEO  伊藤 裕康氏

 

感謝と市場流通への思い

大学の弁論部で積極人間に変身

 ――旭日中綬章、おめでとうございます。
 伊藤 ありがとうございます。

 ――今回の受章を最も喜んでいるのは中央魚類の礎を築いたお父様の故伊藤春次さんかもしれません。
 伊藤 どうでしょうか。お前のようなものが勲章など、とんでもないと叱られるかもしれません(笑)。

 ――春次さんとの思い出は。
 伊藤 中学生の頃、よく火鉢の灰に字を書きながら、当時の市場流通にかける思いを語ってくれたものです。父は神戸高商の夜間部で苦学した人でした。教授は市場法の骨格を作った人であり、そんなこともあって、父は市場法の魂といいますか、真髄を常に突き詰めて考えていたような気がします。

 ――具体的にはどんなことでしょうか?
 伊藤 例えば築地市場の特色や利点として「繁華街である銀座に近い」ということが挙げられますが、父に言わせれば、むしろ逆で、まず市場があって、そこから町や賑わいが形成されていく。人間が生活していく上で「市場」の存在や機能がいかに重要であり、不可欠なものであるかを端的に示していると思います。

 ――伊藤会長が水産業界に身を置こうと決意したのはいつの頃ですか。
 伊藤 大学受験の際、2年浪人したことで、すっかり内向的になってしまった私は、これを何とか克服したいと、入学した立教大学で弁論部とグリークラブに入りました。合唱はともかく、弁論部では心底鍛えられまして、すぐに人間が180度変わりました。

 勢い余って学生運動にも参画。それどころが、気が付いたら当時の大学総長に1対1で飲みに連れていってもらえる関係になるほど、学内では中心的な存在になっていました。我が家も仲間たちが常に寝泊りする合宿所のような状態でした。

 ――内向的どころか、すっかり活発な青年に変わってしまったようですね。
 伊藤 学生運動といっても、特に過激なことはしておりませんが、今でも覚えているのが「授業料値上げ反対運動」。実は3年次の時、卒業式で送辞を読むことになったのですが、予定原稿になかった「授業料値上げ反対」のくだりを土壇場で差し込み、式場内をあっと驚かせました。

 予め原稿チェックしていた担当の先生はびっくり仰天しましたが、理事長からは「良かったよ」と言われ、むしろ面白い学生だと大目に見てくれたようでした。

 ――いい時代ですね。
 伊藤 でも、そんな私に対する評価は父と母で正反対でした。母は頼もしくなった私を喜んでいたようですが、父はそんな破天荒な私の将来に一抹の不安を感じていたようです。

 やがて4年生になり就職活動。当時の総長から直筆の推薦状をもらえたほどでしたが、それだけで就職できるほど、世の中は甘くありません。

 結局、父が日本水産とニチレイの当時の社長に掛け合い、何とか面接してもらえることになったのですが、あろうことが同席していた父が面接でのやりとりを聞いていてすっかり心変わり。「こいつは外に出すのはもったいない。ウチ(中央魚類)で使おう」ということになったのです。

 ――弁論部と学生運動の成果かもしれませんね。
 伊藤 社長の息子ではありましたが、ちゃんと試験は受けましたよ。

 やがて私が社長になった時、築地の卸売会社が合同で就任祝いを開いてくれたのですが、その時、ある社長が父に「息子が後を継いでくれて良かったな」としみじみと語っておられたのを今でも鮮明に覚えています。
 あの時の父の嬉しそうな表情を、今も忘れることはできません。99歳で他界するまで、暗算のイロハをはじめ、本当に色々なことを教わりました。

未来に向けての前向きな議論を

 ――人生の素晴らしい先輩であったわけですね。
 伊藤 真面目でまっしぐら、横道が大嫌いな人で、人としても本当にきちっとしていました。ものすごい勉強家で、計算も素早く、あんなに素晴らしい父を持てた自分は本当に運のいい男だったと思っています。

 晩年は病に悩まされた父でしたが、私も一生懸命に看病しました。30年間、父の薬は私が管理していた。ともに病気と闘う戦友のような感じでした。

 1900年生まれでしたので、2001年まで生きれば「3世紀を生き抜いた人になれる」と頑張っていたのですが、残念ながら、その願いは叶いませんでした。

 ――でも伊藤会長のような方がしっかりと後を継ぎ、所願満足だったのではないでしょうか。
 伊藤 ありがとうございます。

 ――ところで、今年は豊洲新市場の移転問題がある、これほど市場に注目が集まった年はありませんでした。会長も今年ほどテレビに出たことはなかったでしょう。
 伊藤 「いつも怒っているおじいさん」で日本中に広まってしまいました。でも先日、「テレビで見ています。頑張って下さい。応援しています」と見知らぬ方から声をかけていただいたのは嬉しかったですね。

 ――早く問題が解決してほしいですね。
 伊藤 「市場」とは何かということを、社会全体が考え直す時。言ってみれば「生産者」は少品種大量を求め、「消費者」は多品種少量になる。この相反する2つを、説得力ある情報をもとに結ぶのが「市場」にほかなりません。

 今回の移転問題は単なる引っ越しではありません。未来に向けた市場をどう創るかということなのです。

 市場がどうあるべきかという原点をもう一度見つめ直し、それを実現するために何が必要かと考える“足し算”の議論が今こそ必要であり、そうした前向きの議論をしたいと思っています。

 ――これからもますますお元気で、ご活躍を祈っております。

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