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業界交差点

この人に聞きたい:第570回
(週刊水産タイムス:17/01/01号)

魚の販路、国内も海外も

JF全漁連 会長  岸 宏氏

 

水産復活へ、二の矢三の矢

 JF全漁連の岸宏会長は燃油高騰時のセーフティーネットや漁船建造の対策に奔走し、国の支援体制を整えた。今後は人づくりや輸出拡大・魚食普及に照準を合わせ、プロジェクトを進める方針。水産日本復活へ、岸会長に2017年の舵取り方針を聞いた。

 ――ここ3年である程度、漁業を支援する国の施策的な仕組みは整った。
 「漁船漁業の生産コストの大半を燃油代が占める。このため、燃油価格が高騰すると大きなダメージを受けてきた。しかし、国のセーフティーネット構築事業のおかげでそういう心配が緩和され、価格が急騰した場合でも、安定操業ができるようになった」

 「もう一つの大きなコストは、新船の建造や既存漁船の修繕への投資だ。これについても、費用の半分を国が補助する漁船リース事業という制度ができた」

残るは人づくり。仕組みを構築する

 ――漁船リース事業は2015〜2016年度で、約220億円が予算措置された。
 「JF全漁連の需要調査では、3年間で約470億円の予算措置が必要となる。来年度以降の予算獲得にJFグループを挙げて取り組んでいく」

 ――2017年、一番力を入れて取り組むことは。
 「漁船、燃油価格への対策が整備され、残るは人づくり。これがいま抱えている最も大きな課題だ。漁業に参入すればしっかりと仕事ができ、生活を支えられる所得が得られるという、魅力を感じてもらえる浜の受け皿というものを用意しなければならない」

 ――人材確保に向けた具体的な策は。
 「他産業で仕事をしている人や、漁業に魅力を感じている若者にどうアプローチしていくか。JF全漁連として、仕組み構築に向けた素案づくりを進めている」

 ――浜プランについて。
 「650地域のうち、現在580程度の浜プランが国の認定を受け、それぞれの浜で鋭意実践中だ。地域の特徴を生かし、今までの経験を生かした新しい挑戦が始まっている。浜が良くなるために自らが将来の道標を策定したわけだから、着実にそれを実行しなければならない。つくったらそれで終わりではダメ」

 ――「プライドフィッシュ」プロジェクトは、魚食拡大につながっているか。
 「具体的に検証することはなかなか難しいが、魚介類の消費については、1世帯当たりの魚介類の年間支出はここ3〜4年、回復基調にある。これはプライドフィッシュ効果を前向きに捉える大きな判断材料になる。もちろん、他の団体なども様々な形で魚食普及活動に取り組んでいるので、それらも合わせた結果だと思う」

 ――プライドフィッシュを普及させるために、どんなことを。
 「今、イオンや阪急オアシス、京急ストア、東急ストアといったチェーン展開しているスーパーマーケットで、定期的にフェアを開催してもらっている。それが普及への起爆剤になっている」

 ――魚はどんな形で売るのが理想か。
 「昔は奥さんが丸の魚を買って、家庭の台所で捌いて料理するのがいいと思っていた。でも、共働きが多い家庭でそれは期待しても難しいと最近思うようになった。時代がそういう時代じゃない。生鮮でも切るだけで食べられるとか、消費者の簡便化志向に対応した鮮魚流通の確立が喫緊の課題だと感じている。とにかく、まず魚を食べてもらうことが大事だ」

 ――プライドフィッシュのコンセプトは地方に来て食べてもらうこと。実際に観光客は増えているか。
 「私の地元、島根県では増えている。やはり、鮮度のいい魚を浜で食べてもらうのが一番だ。魚の旬や食べ方は産地の水産関係者が一番知っているわけだから。産地で食べてもらうことは、地方創生の原点でもあると思う。都会から移住してもらおうとしても、現実には仕事や就学の点でなかなか難しい。短期で大量に人が来れば地方は活性化する」

輸出振興で、新セクションをつくる

 ――海外市場の掘り起こしも必要だ。
 「その通り。次は輸出だ。魚の消費拡大に向け、海外でも販路を開拓したい。JF全漁連がシンガポールに開設したアンテナショップ「JF KANDA WADATSUMI」で2年間、日本の水産物をPRし、海外販路拡大の足掛りはつくった」

 ――今後、さらに踏み込んだ輸出戦略に取り組むと。
 「2017年度は全漁連の中に専門のセクションを設け、輸出振興と魚食普及を一体として進める体制を整える。流通基盤を整備するため、産地市場の統合も大きな柱になるだろう。産地の質の高い魚を優位に販売していきたい」

 ――2016年は地震や台風など、災害が多い年だった。
 「熊本地震に関しては、系統組織などに支援募金を呼び掛けたところ、7000万円を超える多額の募金が集まり、感謝している。私自身も本会の常勤役員も何度も熊本に足を運んだ。復興は順調に進んでいると思う。ただ、流木の後処理問題など、まだ課題は多くあるので、引き続きフォローしていく」

 ――国境監視の一端を漁業者が担っているのに、その理解が国民に広まっていない。
 「日本列島には漁村集落が約6300ある。5.6qごとに集落が1つある計算になる。漁船は15万隻。これを日本列島沿岸3万5000qに全て並べると、230mに1隻になる。そういう意味で、漁村があり漁業者がいることが、島国日本の安全担保や他国からの侵入の抑止力となっていると思う」

 「漁業の広域機能を生かせるのが、国境監視だ。しかし、漁業者がそういった役割を果たしていることを国民の皆さんはほとんど知らないし、私たちも強く訴えてこなかった。政府は国防政策として明確に位置付けるべきだ。今後は国に対し、精力的に働きかけていく。漁業者が国境監視を担っていることを国民の皆さんが知れば、それを支えようと魚の消費量が増えるなど漁業への理解も深まるかもしれない」

 ――東電福島第一原発事故について。
 「原発事故を受けて、海外諸国が日本の5県産の食品輸入規制を実施しており、まだ全て解除されていない。これは外交問題でもあるので、国に解決してもらわなければならない。JF全漁連も、1日も早い輸入規制の解除の実現と、安全を担保した上での原発廃炉に向けた動きを注視していく。廃炉は1企業の問題ではなく、国が前面に出て取り組むべき問題であると考えている。

 ――最後に浜の漁業者にメッセージを。
 「我々自らが変わろうという意欲を持って努力すれば、展望が開ける時代が来た。漁船リース事業にしても、国が補助金を出す画期的な施策ができるとは当初、誰も思っていなかったことだ。でも、それが実現したのだから、こうした施策を活用し、浜プランなどを着実に実行しながら、浜の漁業者とともに漁村の活力を取り戻すために頑張る明るい一年にしていきたいと思っている」

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