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この人に聞きたい:第886回
(週刊冷食タイムス:23/06/06号)

学校給食にもっと国産水産物を

大日本水産会 白須 敏朗会長
日給連 中込 武文会長
学流協 高橋 俊之専務理事
全給協  平井 昌一理事

 

 「学校給食で国産水産物をもっと子ども達に食べてほしい」をテーマに水産業界代表と学校給食3団体が5月24日、大日本水産会の事務所で会談した。栄養バランスに優れた魚食を推奨したいという両者の思いは一致。全国各地で発生する流通ルートに乗らない未利用魚や端材の活用、そのための情報ネットワークの有無、学校給食の無償化に合わせた国産水産物の予算枠確保など、さまざまな意見・アイデア・課題を共有した。
 会談したのは(一社)大日本水産会の白須敏朗会長と、(一社)日本給食品連合会の中込武文会長、(公社)学校給食物資開発流通研究協会(学流協)の高橋俊之専務理事、全国給食事業協同組合連合会(全給協)の平井昌一理事。平井理事は全給協に加盟する(協)関東給食会の理事長でもある。

「栄養バランスに優れた水産物の摂取は必要」と白須会長
「学校給食で魚を食べてほしい」と中込会長
「コロナ禍でも新しい推奨品を世に出した」と高橋専務理事
「漁連・漁協と接点持てた」と
平井理事
魚や端材活用できないか

 中込 初めての会合ということで、まず各団体の活動内容から。
 高橋 学流協は北海道から九州・沖縄まで、全国の卸115社の流通会員で構成している。さらに大手メーカーを中心に生産会員が26社。主な活動は2つ。1つは学校給食にふさわしい推奨品の開発・普及。現在の推奨品は61品。食数で約1億食を普及している。もう1つは学校教諭、栄養教諭に対し、学校給食に関するさまざまな情報を提供すること。
 平井 全給協は北海道から九州まで、学校給食を扱う卸で構成する6つの協同組合(単協)の取りまとめをしている。計57社が加盟している。活動は単協の連携や、輸入水産品を学校給食向けに、水産加工業者に割り当てる役割を担っている。
 中込 日給連は全国75会員で構成している。水産分野ではニッスイ、ニチレイ、極洋、マルハニチロ、宝幸など冷凍食品メーカーに加工品やPBを作ってもらっている。
 白須 大日本水産会は水産業界の意見や要望を汲み上げて政治や行政に伝え、業界をサポートすると共に進むべき方向へ業界をリードする、いわば水産における経団連のような存在。東京と大阪でシーフードショーを主催している。国産水産物の輸出促進のためのHACCP認証取得への支援や海外の水産見本市に参加して国産水産物の売り込みの支援もしている。
 中込 コロナ禍で水産物の需要が落ち込み、販路拡大が大きな課題となった。全給協の中の関東給食会がこの問題を取り上げ、政府の支援を受けて子ども達に国産水産物を提供したと聞いた。
 平井 関東給食会が窓口になり、緊急対策事業として計2回取り組んだ。総数で65tの魚を関東の延べ2460校の学校給食に提供した。国から物流費や保管経費を補助してもらい、東京、青森、三重、兵庫、愛媛、高知、長崎、宮崎、福井の漁連・漁協から仕入れた。真鯛など高級魚を学校給食に提供したため子ども達に喜んでもらい、方々の学校から直接お礼があった。滞留していた在庫を減らすこともできたので、非常に良い取り組みだった。
 これをきっかけに、群馬県では給食で魚を使ってもらう日に、オンラインで漁協とつないで食育の授業をしている。真鯛を小学校に送ってもらい、実物を目にする機会を作ったこともあった。学校給食の予算は限られているが、国産水産品が気軽に使えるような枠組みができればいい。

産地の情報をいち早く知りたい

 中込 学校給食は4〜5月の時点で9月の献立を考える。その時期に何が使えるのか、情報が欲しい。しかし、漁協からは何が出るのかわからないという時差の問題がある。早く情報を得ることができれば、献立ができる。また、切り身に加工してもらう時、規格にばらつきが出る。グラム数にかなり差が出てしまうのも課題。
 コロナで大日本水産会も大変だったと思う。
 白須 特に飲食店向けの比較的単価が高い魚で在庫の滞留や価格の低下が生じた。これらの水産物の需要を喚起するため、農水省が「国産農林水産物等販売促進緊急対策事業」を補正予算で用意した。インターネット通販での送料無料化と、試供品の提供の2つを大日本水産会が支援した。
 養殖業者は魚が売れなくても餌をあげなければならないが、成長しすぎて一定のサイズを超えてしまうと売り先がなくなる。対策事業によって「行き場を失った魚がさばけた」、まぐろ業界からは「コロナ禍の影響で、冷凍庫が満杯で沖積船からの水揚げができなかった在庫がはけた」といった声が届いており、流通・販売分野にテコ入れした効果は一定程度あったと再認識している。
 中込 会員の中には自社独自で魚の加工場を持っている場合がある。学校給食は半年前にはメニューを決める必要があるため、事前にどこの産地にどのような魚がどのくらい供給できるのか、情報が欲しいと求められている。すばやく情報が得られれば、もう少し魚食が拡大できる。
 白須 地場の魚を旬の時期に給食に取り入れて子どもたちに味わってもらい、将来の国産水産物の消費者に育ってもらうのが理想ではある。そのためにはまず、地元の納入業者がどこから何を仕入れているのか把握し、地元の卸売市場や漁協に相談するのがスタートだと思う。「学校給食にぜひ使いたい」と相談すれば、大抵の水産関係者は相談に乗ってくれると思う。その上で難しければ、大日本水産会がいつでも協力させていただく。
 中込 山梨、群馬、埼玉は海がないので何もわからない。魚を水揚げするところと需要があるところはバランスが悪い。地元で獲れた魚を地元で消費する考え方もあるが、生産者を守るにはもっと大きい市場、学校給食に使う方が継続的に取り組める気がする。
 白須 昔、いわしが大量に獲れた時があったが、現在、その水揚げが復調している様子。最近、東北に行っていわしの話を聞いた。丸干しにするには良いサイズでもニーズがそれほど高くなく、養殖まぐろの餌として販売すれば良い値で引き取ってくれるらしい。私も最初は給食用にコロッケやメンチカツにすれば良いと思ったが、給食のメニューは半年先まで決まっている。その間、冷凍保管する経費や加工して配送する経費が結構かかるため、製品単価が上がる。簡単ではないことがわかった。
 気仙沼ではめかじきのメンチコロッケを宮城県内の学校給食に取り入れた。復興支援の補助金を活用して1食73円で提供していたが、魚価と材料・運送費のコスト上昇による単価アップで、残念ながら今は提供を見合わせている。コストの問題をぜひ皆さんで解消してほしい。
 平井 気仙沼の事例と似ているが、関東給食会では八丈島漁協で生産したムロアジメンチを継続的に販売している。原材料の水揚げが安定していないので苦労している。補助金は活用していない。
 また、コロナ禍を機に販路を拡大した取り組みのおかげで、全国の漁連・漁協と接点を持つことができた。福井県漁連と関東給食会で一緒に商品を作ろう、という話ができるまでになった。漁連・漁協との接点が持てたのは非常に良かったし、大切だと思う。
 中込 学流協はコロナ禍でどうだった?
 高橋 学流協は推奨品の選定、開発会議を年4回、栄養教諭を集めて実施している。栄養教諭による審査・評価の後、最終的に大学教授ら学識経験者による審査を経て推奨品という形で世の中に出している。リアルで集まり、試食する場を設けるのが難しい3年間だったが、飛沫防止対策などを徹底して少人数で実施した。そのおかげで年に10品以上、新しい推奨品を出すことができた。
 中込 磯焼け(海藻が著しく減少し、海藻が繁茂しない現象)が問題になっているそうだが、状況は。
 白須 磯焼けそのものは温暖化だけが原因ではなく、温暖化を要因とする海洋環境の変化で海藻類が育成不良になったり、磯魚の生息域が移動して海藻類が食べられたりしている。特にあいごやぶだいといった魚は海藻類に食害をもたらすとされているが、西伊豆町ではこれらの魚を地元の小中学校に給食の食材として提供する取り組みが始まっていると聞いている。
 神奈川県では磯焼けの原因生物でもあるうにが、えさの海藻不足で身入りが悪く、商品価値が下がってしまうのを、陸上の水槽で規格外のキャベツを食べさせることで身入りを良くする取り組みが始まっている。駆除対象のうにと、廃棄対象の規格外キャベツの活用はユニークで、非常に良い取り組みだと思っている。
 中込 学校給食で魚を食べさせたいが近海物が獲れない、単価が高いというジレンマがある。各生産地で端材みたいなものがあると思う。それをつみれやつくねに加工すれば安定供給できる。生産地では結構あるのだろうか?
 白須 加工するにも経費はかかる。誰かから何か言われない限り生産者はコストを抑えるために商品にならなければ食用にせず、飼料や肥料に回す。現状では自分たちから学校給食に活用しようする発想はあまりないと思う。学校給食団体の皆さんは漁協や生産者とよくコミュニケーションを取っていただき、学校給食に提供できる可能性のある魚やその活用方法について相談されれば良いと思う。

子どもが魚を食べる量減少傾向

 中込 話は変わるが、最近子どもが魚を食べなくなっている。文科省の調査によると、小学生が2週間に食べる魚の量は平成21年度が15.2g。10年後の令和元年は13.6g。中学生も同じ期間で20gから18.5gに減っている。個人的には100gは食べてもらいたいと思っている。日本では昨年、「さかなの日」が設けられた。
 白須 水産庁の働きかけで、水産物の消費拡大に向けた官民の取り組みを推進するため毎月3〜7日を「さかなの日」とし、11月3〜7日を「いいさかなの日」に制定。おいしい魚を食べようと取り組んでいる。現在では水産関係の企業・団体の賛同メンバーが700を超えている。取り組みは水産物の消費拡大・魚食普及に向けた「お魚フェア」、特売、市場祭りといったイベントが中心で、各メンバーが自主的に活動している。
 大日本水産会は今年度、水産小売りと消費者を結びつける簡易的な魚の下処理プログラムを実施している。学校給食では月に一度くらい骨付きの魚を給食に出して、ゆっくりと時間をかけて、ていねいに、安全に食べる練習を繰り返すことを進めていきましょう、と呼びかけている。

給食費無償化で国産枠を確保

 中込 政府は学校給食の無償化を検討している。個人的には無償化し、政府のお金を使うのであれば国策として国産の魚・野菜を食べてもらいたい。無償化に対する皆さんの考えを聞きたい。
 白須 日本の水産物の1人当たりの年間摂取量は20数年前の40.1kgをピークに近年では23.4kgに減少。韓国やポルトガルなどいろいろな国に追い抜かれている。世界中の水産物の平均摂取量は約20kgで、最近は経済発展に伴い増加傾向にあるため、日本は世界平均に等しいぐらいに近づいてしまっている。逆に、肉類には約10年前に逆転され、直近では30.4kgに増加している。
 栄養が豊富な水産物をバランス良くしっかりと摂取することの必要性を継続して唱える必要がある。特に育ち盛りの子ども達には水産物の優れた栄養、その中でも3つの栄養素を摂取するのが有効。
 1つ目は食べると頭が良くなると言われているDHA(ドコサヘキサエン酸)。
 2つ目は魚肉たん白質。体内への消化吸収効率が他のたん白質と比べても格段に優れている。練り製品の原料となるすけそうだらのたん白質は瞬発力を発揮する「速筋」を生成し、強化することが知られている。
 3つ目はカルシウム。育ち盛りの子ども達にとって、カルシウムは骨の密度を上げ、身長を伸ばす栄養素としてたん白質と一緒に摂取するのが理想的と言われている。乾燥した小魚やえびなどはカルシウムを豊富に含んでおり、牛乳など乳製品を苦手にしている子ども達に勧めたい。
 皆さんの力で無償化してもらえるとこれほど嬉しいことはない。また、学校給食への国産・地元の水産物活用への補助金等も継続・拡大していただき、魚食の食育を進め、水産物の消費拡大につながるきっかけとしていただきたい。
 平井 学校給食の無償化は各地域で事情が異なり、簡単ではないと思っているが、もし実現するのであれば、何%かは国産水産物を使うようになれば、魚の消費量が変わってくるのではないか。
 高橋 全国で一斉に無償化されるとは考えにくいが、課題を1つひとつていねいに片付けながら、一丸となってそういう方向に進んでいけばいいと感じている。

白須会長(前列左)、中込会長(同右)、平井理事(後列右)、高橋専務理事(同左)

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