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この人に聞きたい:第900回
(週刊冷食タイムス:23/09/19号)

荷主、納品先の協力必要

(株)キユーソー流通システム 代表取締役社長  西尾 秀明氏

 

できないことは、はっきり言おう

 キユーソー流通システムの西尾秀明社長は物流の2024年問題について「できないことはできないと、はっきり言おう」など、荷主と配送先が協力して物流の安定化を図る必要があると説いた。東京ビッグサイトで13日開催された食品展示会「FOOD STYLE Japan」で「2024年問題とこれからの物流を考える」をテーマに講演した。後援団体の(一社)日本惣菜協会が講師に招いた。要旨は次の通り。
 ◇             ◇
 トラックドライバーの平均労働時間は全産業平均より2割長く、年間賃金は5〜10%低い。平均年齢が高い一方、65歳以上の割合が低い。対策を講じなければ、担い手の減少が急速に進む恐れがある。
 来年4月以降、トラックドライバーの時間外労働時間(残業)の上限が年間960時間(月80時間)に規制される。慢性的に人手不足の業界に、労働時間の上限が加わることで、安定輸送がさらに困難になるという懸念が物流の2024年問題。
 働き方改革関連法に合わせて、厚労省の「改善基準告示」により、年間の拘束時間が3516時間から原則3300時間になる。これは大変な数字。同じように働いていても、1カ月当たり、1〜2日分の拘束時間が足りなくなる。ドライバーを50人抱える拠点の場合、50〜100日分に相当する。その分だけ荷物が運べなくなる。これが2024年問題で一番危ぐしているところ。
 ドライバーの拘束時間が年間3300時間に制限された場合、NX総合研究所の試算では何も対策を講じなければ24年に14.2%の輸送能力が不足する。卸・小売・倉庫業と、飲料・食料品製造業がともに9.4%不足する。30年には輸送能力が34.1%足りなくなる。それだけの問題になっている。
 想定されるリスクは時間外労働時間の上限を超過してしまい、企業が罰則を受けること。突発的な運行に対応できない。盆、年末、ゴールデンウィークといった繁忙期の車両手配が困難になる。トラックドライバーは残業代が減るため、離職が増える可能性もある。

魅力ある職場づくりが大事

 2024年問題を我々は良い機会と捉え、労働環境や労働条件を見直し、魅力ある職場をつくることが大事だと思っている。物流企業1社での対応は難しいため、荷主や納品先と協力して対応しなければ、本当に物が運べなくなる。

荷待ちと荷役は2時間以内

 物流改善ガイドラインでは、1運行当たりの荷待ちと荷役作業は、新たに2時間以内と規定した。
 当社が荷主企業に依頼しているのは荷待ち・荷役作業の2時間以内ルール。さらに荷役作業に関わる対価と、異常気象時の運行の中止・中断。納品リードタイムの確保。発送量の適正化(平準化)。
 当社が労働環境改善に向けて取り組んでいることは、トラック予約受付システムの導入、検品の効率化・検品水準の適正化、出荷情報の事前提供、中継輸送の促進、働きやすい職場認証制度・Gマーク制度(運送事業者の安全性を評価する制度)の推進。
 輸送品別のドライバー拘束時間は「農水産品」が最長。加工食品を含む軽工業品が3番目に長い。食品流通は人手による荷役作業が多く、小口、多頻度輸送も多い。30分以上の待ち時間が発生した件数は加工食品が最も多い。
 当社が荷主企業に要請しているのは、パレットが何層も積み重なった状態を指す“ミルフィーユ”の解消。1アイテム1パレットでの配送を求める荷主が多いため、商品を運んでいるのか、パレットを運んでいるのかわからなくなるぐらいパレットを運んでいる。そしてシール貼りのような付帯作業。我々の仕事は軒先渡しで、商品を届ければ終わり。シール貼りや棚入れ、日付順に商品を入れ替えるような作業は契約にない。こういうことをしていると、ドライバーの運転時間がなくなる。
 あるところで同業者に「あそこはいつも3時間待たされるよな」と言ったところ、「あそこはしょうがないんですよ」と返ってきた。「しょうがないんですよ」と我々が言ってきたこと自体が間違い。「3時間以上も待たせるのなら、どこの企業も運ばないぞ」とそれぐらいのことを言わなければならない。
 そこで、どこで、どれくらい待たされたか、どういう作業をさせられたか、導入したスマホアプリにすべて記録している。そのデータを基に、荷主と交渉している。386の重点納品先のうち、68%で改善が進んだが、残り32%は交渉中。このアプリのデータを持って荷主と戦っている。本当は戦うのではなく、どうやったら運べるかを一緒に考えなければならないのだが、訳のわからないことを言う荷主には、申し訳ないが運べないと言うしかない。

荷主に受注時間の厳守など要請

 今年5月、国のガイドラインに先駆け、荷主企業に文書で要請した。1つは受注時間の厳守。受注時間が遅れると、その後のすべての作業に遅れが生じる。2つ目は1納品先当たりの待機時間を90分以内にした。超過した場合は荷主の了承を得て持ち帰るか、それ以上待つようであれば課金させていただく。3つ目は自然災害時の対応。大雪や大雨、台風時にはドライバーを守るために運行の中止を早期に決断する。「何が何でも持ってこい」と言うから原料を持って行ったら、その工場は従業員を帰らせて閉まっていた、ということもあった。
 これから取り組むのは、隔日配送・定期配送化。受注は前々日に締める。そうすれば事前に効率的な運び方が準備できる。シーズンチャージも検討する。ホテル代や航空券は盆・暮れになると高くなる。物流業界で実現しているのは引っ越し業者のみ。我々も繁忙期は料金が変わるようにしなければ、ドライバーが休みを取れない。
 全国どこに行っても同じ価格の「一物一価」という言葉があるが、これはおかしい。東京で生産した商品を沖縄でも同じ価格で販売するのはあり得ない。商品の価格と物流費はわけて考えるべき。

共同配送は路線バスと同じ

 共同配送の考え方は路線バスと同じ。決められた時間にバス停に来た客を乗せることで、低料金が実現できる。我々は決められた時間に遅れる荷主を待っていた。バスに乗り遅れた人はタクシーに乗る。我々も運行時間が来たら出発する。これを荷主企業には理解していただきたいが、今まで何とかしてきた我々にも責任がある。これからは「できないことはできない」とはっきり言わなければならない。15時過ぎに銀行の窓口を開けてくれと言う人はいない。

労働環境を改善

 私が10年前に今の会社に来た時、倉庫をきれいにするのが最優先で、働く人の環境は考えていなかった。全国の拠点を回ったが、和式のトイレしかなかった。休憩所はたばこのヤニだらけ。誰だって気持ち良くトイレや休憩所を使いたい。この10年でかなり改善が進んだ。
 長距離輸送はリレー輸送を推進している。東京‐大阪間は浜松の拠点で互いの荷物を入れ替え、ドライバーが日帰りできるようになった。こうした取り組みが評価され、経産省と国交省が実施している「グリーン物流パートナーシップ会議「DX物流・標準化表彰」を受賞した。
 ほかに、女性や高齢者が運転しやすい1tバンの導入や、事前出荷情報を活用した荷受け・車両の効率化、アプリによる入庫予約に力を入れている。
 我々の仕組みはすべてオープンにしている。皆さんにどんどん使ってもらい、世の中全体の物流がスムーズになれば、これに越したことはない。
 物流業界が大変な状況であることがわかってもらえたと思うが、今のままでは物が運べなくなる時代が来る。物流事業者が運べる量にも限界がある。今までは我々が選ばれる時代だった。これからは我々が顧客を選ばざるを得ない時代になる。いずれにしても、荷主企業・納品先企業と一緒になって、できるだけ物を絶やさないように、物流の安定化を図っていきたいので協力をお願いしたい。

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