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水産タイムズ社
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この人に聞きたい:第926回
(週刊水産タイムス:24/03/25号)

有形無形の資産を次代につなぐ

(株)水産タイムズ社 代表取締役会長  越川 宏昭氏

 

タイムスと半世紀 記者の仕事を愚直に

創業者が急逝、44歳で会社を受け継ぐ

 人生にはこれぞ転機という時があるものだが、私の場合は平成元(1989)年2月、44歳の時に大きな転機を迎えた。創業社長で岳父の越川三郎が急死したのに伴い急遽社長に就任したのだ。
 トップの急逝は文字通り青天の霹靂、一挙に押し寄せた責任の重圧に押しつぶされそうになった。当社には「水産タイムス」と「冷食タイムス」という二つの編集部があって私は後発ながら伸び代のある冷食タイムス編集部の責任者として長年活動してきたし、専務となり両方を見る立場になっても仕事も意識も「冷食」に重心を置いたままだった。どういう会社にするのか、自分になにができるのか、問いかける日々が始まった。
 私がやれることなど知れている。ただ、創業者の背中を見ながら仕事をしてきた15年程の経験がある。先代が生きている時は反発もしたが創業者の実力は認めていた。実に多くの有形無形の教えを受け止めているのは間違いない。
 そうだ、先代の足跡に学びそこに自分らしい新味を加えて行けばよいのではないか。そう考えるとおぼろげながら進むべき道が見えてくる気がした。
 先代は創業から何度も会社がつぶれそうな危機に直面した。その度になにくそという反骨精神と創意工夫で乗り越えてきたことは本人から何度も聞いている。経営危機を救ったのは新しい出版物であり、他に例のない海外セミナー企画であった。たとえば昭和38(1963)年に40日かけて世界一周の水産事情視察セミナーを挙行している。業界の重鎮や政治家、官僚を招いて座談会も度々行った。 
 私もまさにこういった先代の“無形資産”を生かして進もうと心がけた。国内セミナーや海外セミナーは年中行事として定例化する、出版物も意欲的に刊行した。「冷凍食品業界要覧」を毎年欠かさず発行、さらに「食品工場改善入門」は版を重ねた。「業務用食品流通を切り拓いた 創業者の群像」「業界人脈200人集」「冷凍食品お料理ブック」「定点観測 タイ・中国冷食事業進出の10年」「冷蔵倉庫を歩く、見る、聞く」などなど。

意欲的な海外取材で先鞭つける

 海外取材にも力を入れた。先代が先鞭をつけた仕事ではあるが、北米シアトルでスリミ取材、そしてアラスカの水産加工場を訪問したのは思い出深い出来事だ。ニチロ(現マルハニチロ)が経営するアラスカ鮭鱒事業の漁業基地・缶詰加工場をまさに繁忙期に訪ねた。駐在するニチロ社員が不眠不休で現場指揮をとっているのを見て、魚が水揚げされたらあとは時間が勝負、すぐさま加工処理を行う現場の厳しさを目の当たりにした。
 また、ニッスイのスリミ加工場をダッチハーバーに訪ねたのも忘れられない経験だ。ダッチハーバーは年中、気象条件が良くないから、プロペラ機が着陸できるか否かは運次第。曇天で雲の切れ目をみつけて急降下した時はスリル満点だった。
 我が国の水産会社はとてつもない地の果て海の果てまでも進出して水産物を獲得し、加工をしているのだ。アラスカを訪問してそんな感慨を深めた。
 その後、タイ・中国への取材旅行を定期的に実施。時にはベトナム・インドネシアにも足を延ばした。他社に類例のない海外取材で差別化したいと思った。

コラム「双眼鏡」、30年余連載続ける

 先代は読者を獲得するために記事ばかりではなく誰でも気楽に読める読み物が必要だと考え、「水心随筆」を連載、これが人気を呼び、多くの読者を獲得した。そして2年毎に単行本にまとめて発行、営業的にも大きく寄与した。
 私には先代のような学識も文才もないけれど、せめて軽く読める随筆を書けないものかと思い始めたのがコラム「双眼鏡」である。水産タイムス紙での連載は先代が逝去した平成元年(1989)2月にスタート、下手なりに継続は力なりと21年3月まで32年間休みなく続けた。駄文で読者に申し訳なかったが、それでも書き続けることができたのは、時折、「あれはあなたが書いているのでしょう?いつも読んでいますよ」と言ってくださる人がいたからである。ただ、30年余も続くとさすがに息切れ、種切れ、油切れとなり打ち止めにした。ご愛読下さった方には本当に御礼申し上げたい。
 私の社長時代のエポックメイキングな出来事は平成20(2008)年に新媒体「ザ・フードエンジニアリングタイムス」(略称FEN 週刊)を立ち上げたことである。水産・食品業界と機械・技術の世界をつなぐ媒体として発刊、今は約1万人に電子メールで配信している。当社ではすでに10年前に業界に先駆けて日刊紙の「水産タイムス」「冷食タイムス」をWeb配信に切り替えている。大版の週刊水産タイムスと週刊冷食タイムスの2紙は新聞紙による制作、配達を続けているが、日刊2紙は即日配信というWEBの強みをいかんなく発揮して読者の高い支持を得ている。電子化といえば、業界に先駆けて新聞編集作業の電子化にも取り組み、編集の合理化、コストダウンで大きな成果を上げたことを特筆したい。
 私は社長職を27年、会長職を10年務め、入社以来の社歴は半世紀を超える。年齢も間もなく傘寿である。新たな転機の時を迎えたように思い3月末をもって退社することにした。長年にわたり多くの方々に支えられ、時には叱咤激励されたことを心から感謝したい。後を引き継ぐ大場隆広社長(4月1日付)以下新体制のスタッフに倍旧のご指導ご鞭撻をお願いします。

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